仕事上の人間関係トラブル①|「上司の言うことがコロコロ変わる」と感じたら―指示と判断基準の違いから考える
こんにちは。
認知行動療法カウンセリングセンターです。
仕事をしていると、人間関係そのものだけでなく、「指示の受け取り方」や「仕事の優先順位」をめぐって、上司と部下の間にすれ違いが起こることがあります。
たとえば、
「前はこうしろと言われたのに、今度は逆のことを言われた」
「言われた通りにやったのに、なぜか注意された」
「上司の指示が毎回変わるので、結局どうすればいいのか分からない」
といった経験です。
部下の立場からすると、
「結局どっちなのだろう」
「前と言っていることが違う」
「言うことがコロコロ変わる上司にはついていけない」
と感じることもあるでしょう。
一方で、上司の側からすると、
「前回とは状況が違う」
「そういう意味で言ったわけではない」
「状況を見て判断してほしい」
と考えていることがあります。
なぜ、このようなすれ違いが起こるのでしょうか。
もちろん、本当に上司の方針が頻繁に変わっている場合もあります。
ただ、それとは別に、
「具体的な指示は変わっているけれど、その背景にある判断基準は変わっていない」
というケースもあります。
今回は、職場で起こりやすい「上司の言うことがコロコロ変わる」という問題について、認知行動療法の視点も交えながら考えてみます。
「前と言っていることが違う」は、なぜ起こるのか
たとえば、いくつもの仕事を抱えている部下に対して、上司が、
「細かい仕事ばかりやっていないで、まず重要な仕事に集中して」
と伝えたとします。
ところが別の日には、
「その仕事はいったん止めて、こちらを先に対応して」
と言われる。
部下からすると、
「この前は、一つの仕事に集中しろと言われたのに」
と感じるかもしれません。
一方で上司からすると、
「今回は急ぎなのだから、こちらを先にするのは当然」
となる。
このような場面は、職場では決して珍しいものではありません。
ここで重要になるのが、
「具体的な指示」と「その指示を生み出している判断基準」を分けて考えること
です。
指示が変わっても、判断基準は変わっていないことがある
先ほどの例で、上司が本当に求めていることを考えてみます。
もしかすると、
「一つの仕事だけに集中すること」
そのものを求めているわけではないかもしれません。
上司が重視しているのは、
「その時点で重要度や緊急度の高い仕事を見極め、適切に優先順位をつけること」
なのかもしれません。
そう考えると、
「今はこちらの仕事に集中する」
という判断と、
「今回は別の仕事を先にする」
という判断は、表面的には矛盾して見えても、背景にある考え方は同じです。
状況が変わったため、同じ判断基準から違う答えが出ている
ということです。
ところが、この判断基準が共有されていなければ、部下に見えるのは、その都度伝えられた具体的な指示だけです。
「前回はAと言われた」
↓
「だからAをやった」
↓
「今回はBをやれと言われた」
↓
「前と言っていることが違う」
という理解になりやすくなります。
一方で上司には、自分の中にある判断基準が見えています。
そのため、
「状況が違うのだから、今回はBになるのは当然」
と感じます。
つまり、どちらか一方が必ず間違っているというよりも、お互いが見ている情報の範囲が違うことで、すれ違いが生じている場合があります。
「臨機応変にやって」は、実は難しい指示
このような場面で使われやすい言葉があります。
「そこは臨機応変にやってください」
という言葉です。
しかし、臨機応変に仕事をするためには、実は多くの判断が必要になります。
たとえば、
- 今、一番重要な仕事は何か
- どの仕事をどれくらい急ぐ必要があるのか
- 何を後回しにしても大きな問題がないのか
- 放置すると誰にどのような影響が出るのか
- 通常のルールより優先すべき例外なのか
といったことを、その都度考えなければなりません。
つまり、
「臨機応変にやる」というのは、決められたルールを覚えることではなく、状況を見て判断すること
なのです。
経験のある人ほど、こうした判断を短時間で、場合によってはほとんど無意識に行っています。
そのため、
「これくらい普通に分かるのではないか」
と思ってしまうことがあります。
しかし、その「普通」は、何年もの経験によって身についたものかもしれません。
経験の浅い人に、
「そこは臨機応変に」
とだけ伝えることは、
答えの出し方を十分に共有しないまま、熟練者と同じ判断を求めること
になってしまう場合があります。
では、ルールを細かく決めればよいのか
そこで、
「それなら細かくマニュアルを作ればいいのではないか」
と考えることもできます。
もちろん、マニュアルやルールは重要です。
一定の品質を保つことや、判断に迷う場面を減らすためにも、
「Aの場合はBをする」
「Cの場合はDを優先する」
といった基準を明確にすることには意味があります。
ただし、実際の仕事には例外が無数にあります。
ルールを細かくすればするほど、今度は、
「今回はどのルールに当てはまるのか」
を判断しなければなりません。
つまり、どこかでは必ず「自分で考える」という作業が必要になります。
だからこそ、仕事を教える際には、
「何をするのか」だけでなく、「なぜ今回はそうするのか」まで共有すること
が重要になります。
「何をするか」だけでなく、「どう考えたか」を伝える
たとえば、
「この仕事を先にやって」
だけではなく、
「これは今日中に対応しないと相手の仕事が止まってしまうため、今回は先に対応します」
と伝える。
あるいは、
「こちらも急ぎに見えますが、明日対応しても大きな影響はありません。一方で、こちらには今日中の締切があるので、今はこちらを優先します」
と説明する。
ここで共有しているのは、単なる「正解」ではありません。
なぜその正解になったのかという判断のプロセスです。
こうした説明が積み重なっていくと、
「上司に言われたから、この仕事を先にする」
という状態から、
「この条件なら、今回はこっちを優先した方がよさそうだ」
という状態へ、少しずつ変化していきます。
言い換えるなら、
正解を教えるのではなく、正解の作り方を共有する。
これは、仕事を任せられる人を育てるうえで、とても重要なことではないでしょうか。
上司側には「自分の当たり前」を言語化する作業が必要
この問題を、
「言われたことしかできない部下が悪い」
だけで片づけてしまうのも適切ではありません。
上司側が考えたいのは、
「自分が何を基準に判断しているのかを、本当に相手へ伝えているだろうか」
という点です。
経験を積んだ人ほど、判断は自動化されていきます。
何かを見た瞬間に、
「これは急ぐ必要がある」
「これは後でよい」
「これは自分で判断できる」
「これは誰かに確認した方がよい」
と考えられるようになります。
しかし、判断が自動化されているからこそ、自分自身でも、
「何を見て、その判断をしたのか」
を十分に意識していないことがあります。
その結果、
「普通こうするでしょう」
「それくらい分かるでしょう」
「そこは臨機応変に」
という伝え方になってしまいます。
しかし、部下には、その「普通」を作ってきた経験がまだありません。
そのため、上司側には、
自分の頭の中で無意識に行っている判断を、一度言葉にしてみること
が求められます。
これは部下への説明というだけでなく、自分自身の仕事の判断基準を整理することにもつながります。
部下側にもできることがある
一方で、すべてを上司側の責任として考える必要もありません。
仕事をしていて、
「前と言っていることが違う」
と感じたときには、まず、
「前回と今回は、何が違うのだろう」
と考えてみることも一つです。
そして、自分だけでは分からない場合には、
「前回はAと教えていただきましたが、今回はBになるのは、どの部分が違うからでしょうか?」
と確認してみる方法もあります。
これは単に、
「どっちが正しいのですか」
と正解を聞く質問とは少し違います。
上司がどのような判断基準を使っているのかを理解するための質問
です。
そこで、
「今回は締切が今日だから」
「今回は顧客への影響が大きいから」
「これを後回しにすると、ほかの人の仕事まで止まるから」
といった基準が分かれば、次に似た状況が起きたとき、自分で判断できる可能性が高まります。
指示を一つ覚えるよりも、判断基準を一つ理解する方が、より多くの場面に応用できます。
認知行動療法の視点から考える「前と言っていることが違う」
認知行動療法では、出来事そのものだけでなく、その出来事をどのように捉えたかにも注目します。
たとえば上司から前回と違う指示を受けたとき、
「また言うことが変わった」
「この上司は一貫性がない」
「何をしても怒られる」
と捉えると、怒りや不安、諦めなどが強くなるかもしれません。
もちろん、その捉え方が実際に正しい場合もあります。
一方で、
「前回とは何か条件が変わったのだろうか」
「自分にはまだ共有されていない判断基準があるのかもしれない」
と別の可能性も検討できると、確認や相談といった別の行動を選びやすくなる場合があります。
大切なのは、
「上司は本当は一貫しているはずだ」と無理に考えることではありません。
一つの解釈だけで決めつけず、状況を整理し、必要に応じて確かめてみることです。
これは職場の人間関係に限らず、認知行動療法で大切にされている考え方の一つでもあります。
もちろん、本当に「言うことがコロコロ変わる上司」もいる
ここはきちんと区別しておく必要があります。
すべての、
「前と言っていることと違う」
という問題を、
「部下が判断基準を理解していないだけ」
と考えるのは適切ではありません。
実際に、
- 上司自身の方針が定まっていない
- その日の気分によって判断が大きく変わる
- 過去に自分が出した指示を覚えていない
- 結果を見てから後出しで違うことを言う
- 明確な基準を示さないまま、部下だけに責任を負わせる
といった状況もあります。
それを、
「状況を見て臨機応変に対応してほしい」
という言葉だけで部下側の問題にするのは違います。
一つの目安になるのは、
「なぜ今回は判断が変わったのか」を説明できるかどうか
です。
「前回とは○○という条件が違うため、今回はこう判断した」
と説明できるのであれば、具体的な指示が違っていても、その背景には一定の判断基準がある可能性があります。
反対に、
「今回はとにかくこうだから」
としか説明されず、その基準自体も毎回変わるのであれば、本当に上司側の一貫性に問題がある可能性も考えられます。
職場の問題は「どちらが悪いか」だけでは整理できないこともある
職場で人間関係のトラブルが起こると、
「上司が悪い」
「部下が悪い」
という話になりやすいものです。
しかし実際には、
- 情報共有の不足
- 経験値の違い
- 仕事の優先順位に対する認識の違い
- 暗黙のルール
- コミュニケーションの取り方
- お互いの受け止め方
など、複数の要因が重なっていることがあります。
「上司には見えている判断基準が、部下には共有されていない」
ということも、その一つです。
上司側は「何をするか」だけではなく、
「なぜ今回はそう判断したのか」
を伝える。
部下側は「何を言われたか」だけではなく、
「なぜ今回はそうなるのか」
を確認していく。
そうして判断基準が少しずつ共有されていくと、
「言われたことを間違えずにやる」
という関係から、
「状況を見ながら相談し、自分でも考えて仕事を進める」
という関係へ変化していく可能性があります。
まとめ―正解ではなく「正解の作り方」を共有する
「上司の言うことがコロコロ変わる」
「前と言っていることと違う」
そんなとき、本当に上司の方針が変わっている場合もあれば、
具体的な指示は変わっていても、その背景にある判断基準は一貫している
場合もあります。
仕事を教えるということは、正解をたくさん覚えてもらうことだけではありません。
「私は何を見て、どう考えて、なぜこの判断をしたのか」
というプロセスを共有していくことも大切です。
言い換えるなら、
正解を教えるのではなく、正解の作り方を共有する。
そして部下側も、
「前と違う」
と感じたときに、
「前回と今回は何が違うのだろう」
という視点を持ってみることで、見えてくるものがあるかもしれません。
もちろん、職場の関係によっては、上司へ確認すること自体が難しい場合もあります。
「何を言っても否定されるように感じる」
「上司とのやり取りを考えるだけで強い不安が出る」
「仕事のことが頭から離れず、休日も落ち着かない」
「自分が悪いのか相手が悪いのか分からなくなっている」
といった状態が続いている場合には、一人で結論を出そうとせず、第三者と状況を整理してみるという方法もあります。
認知行動療法カウンセリングセンターでは、仕事上の人間関係や職場でのストレスについてのご相談にも対応しています。
「上司を変える」「職場を辞める」といった結論を最初から決めるのではなく、現在どのようなことが起こっているのか、自分はそれをどのように受け止めているのか、今後どのような対応が考えられるのかを一緒に整理していくことも可能です。
よくあるご質問
Q1.職場の人間関係だけでもカウンセリングを受けられますか?
はい。診断の有無にかかわらず、上司や部下、同僚との関係、仕事上のコミュニケーション、職場で感じる不安やストレスなどについてご相談いただくことが可能です。
Q2.「自分にも原因があるのでは」と思い、相談してよいのか迷っています
職場のトラブルは、どちらか一方だけに原因があるとは限りません。カウンセリングでは「誰が悪いか」を決めることよりも、実際に何が起こっているのか、自分の考え方や行動にはどのような特徴があるのかを整理し、今後取り得る対応について検討していきます。
Q3.仕事を辞めるよう勧められることはありますか?
カウンセリングでは、特定の選択を一方的に決めることを目的とはしていません。現在の状況やご本人の希望を整理しながら、どのような選択肢が考えられるのかを一緒に検討していきます。
認知行動療法カウンセリングセンターについて
認知行動療法カウンセリングセンターでは、全国の対面拠点およびオンラインにて、認知行動療法を中心とした心理カウンセリングを提供しています。
職場の人間関係、対人関係の悩み、不安、気分の落ち込み、強迫症、トラウマなど、さまざまなご相談に対応しています。
ご相談をご希望の場合には、事前無料相談をご利用いただくことも可能です。
お申込みフォーム
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSelm3nMBwOyvwnkhrkihe-APBzNTll2NL4fsPB6b6hHMzC8GA/viewform
※本記事は一般的な心理学的情報を提供することを目的としたものであり、個別の職場環境や人間関係について特定の判断を行うものではありません。


